Q400スタックの原因を考えてみた

1月19日昼ごろ新千歳空港で発生したDHC-8-402(Q400)のオーバーラン(運輸安全委員会:事故調はそう認識しているらしい)について、限られた情報しかありませんが原因を探ってみようと思います。Q400、JA461A機が着陸したのは滑走路01R(B滑走路)で、長さ3,000m、幅60mです。発生時刻は報道映像から11時58分(日本時間)としました。

毎日のように車で雪道や凍結路面を走っている北海道の人なら、飛行機が滑って曲がれなかったという報道から、スピードが速かったか、路面がツルツルだったのかな?と考えるでしょう。そこで、Q400の「スピード」と滑走路の「路面状態」について検討してみます。

スピード

飛行中に重要なのは対気速度ですが、着陸した後のハナシなので「対地速度」で考えます。自動車のスピードと同じですね。着陸したQ400は誘導路に出るため、このときは滑走路01Rの終端(北側末端)付近で直角に左に曲がる予定でした。しかし、ニュース映像を見ると、Q400は滑走路末端を超え、過走帯(末端から60mのオーバーラン・エリア)をも突き抜けて雪の中で停止しました。監視カメラがその瞬間を捉えており、ある民放のカメラは、映像から判断すると国道36号線の東側、EPSONビル屋上にあるようで、Q400が停止した位置に近いです。この映像から「対地速度」が分かりそうです。まず頭に浮かんだのは次の方法です。

機首先端が任意の地点を通過してから同じ地点を尾翼後端が通過するまでの時間を計れば、その時間で機体全長分の32.8m進んだことになって速度が求まります。映像を見ながら時間(秒)を計ると滑走路末端付近で約2.8秒でした。これを速度にすると約23kt(約42km/h)になります(「kt」は「ノット」または「海里」)。スマホのストップ・ウォッチによる手動計測なので、数回繰り返して平均したり目標地点を変えたりしていますが、誤差は大です。それでも、Q400の対地速度は20kt以上で、時速にすると40km/h以上だったということは言えるでしょう。

(注:画像をフレーム単位でコマ送りして時間差を計ればもう少し精度が上がり、さらに加減速まで分かるかもしれません。)

…で、その「20ノット以上」って適切なスピードなの? 滑走路から斜めに出られる高速脱出誘導路ならともかく、直角の誘導路に出るには20ノットは速過ぎると思います。雪や氷のない、ドライ路面だったとしても20ノットでの「コーナリング」は速過ぎるでしょう。長い直線の誘導路を走行する場合でさえ20ノット台、直角のカーブでは10ノットかそれ以下に速度を落とすとベテラン機長から聞いたことがあります。(私の知る限り、地上走行速度の規定は航空会社によって異なり、数値までは明記していない場合もあるはずです)

冬の新千歳空港、地上走行は用心に用心を重ねてゆっくりと。

路面状態

滑走路面の状況を知るためにノータム(NOTAM)を見てみました。私がAIS JAPANのwebで確認したのは事案発生から5時間以上経過した17時半過ぎのこと。このとき画面に表示されたノータムは、新しい順に、

  1. 滑走路01R/19L(滑走路)閉鎖の情報
  2. 滑走路01L/19R(A滑走路)のS/I(雪氷)コンディション
  3. 滑走路01R/19L(滑走路)のS/Iコンディション
  4. 誘導路とエプロンのS/Iコンディション

と続きます。

Q400が雪に突っ込んだ滑走路01RのS/Iコンディションの情報は上記「3.」ですが、記号ばかりで分かりにくいので、内容(一部)を次のようにまとめました。

  • 滑走路上に1mm程度の積雪
  • 滑走路の8割以上が乾いた雪で覆われた圧雪状態で、表面は平ら
  • 滑りやすさは、滑走路の南側三分の一のエリアは「MEDIUM to GOOD」、そのほかの滑走路北側のエリアは「GOOD
    (注:日本では滑りやすさが6段階で表され、滑りにくい順に、1: GOOD、2: MEDIUM to GOOD、3: MEDIUM、4: MEDIUM to POOR、5: POOR、そして6: VERY POORとなり、VERY POORでは離着陸できない)
  • 滑走路脇のスノーバンク(除雪した雪山)は高さ50cm未満で、両バンクの間隔(使える滑走路幅)は55m以上

このデータ計測当時、Q400が出ようとした滑走路の北側末端付近は「GOOD」で、特段に滑りやすい状態ではなかったようです。とは言っても滑走路を三分割したエリアごとの平均データですから、特定の一部分のことは分かりません。また、この情報は日本時間1月19日08時52分時点の情報です。つまり、事案発生の3時間前の計測データが当時提供されていたことになります。

滑走路中央付近にあるアメダス千歳のデータによれば、1週間降っていなかった雪が19日深夜から降り始め、朝06時と09時ごろ一時的に降り止んでいます。この09時少し前にS/Iコンディションを計測したんですね。しかし雪はその後も降り、午前10時台にはさらに2センチの積雪が観測されました。また、気温は06時前に観測した最低-5.6℃から上昇し、10時20分以降は-3℃以上になっていました。これぐらいの気温だと、氷点下ではあっても圧雪や氷の表面が日差しやタイヤの摩擦熱で溶け、非常に滑りやすい状態になりがちです。ニュースのヘリコプター映像では、滑走路末端から誘導路への出口付近が冬の低い太陽の反射でテカテカに輝いて、とても滑りやすそうな路面に見えました。

このようなことから、S/Iコンディション計測後の3時間のうちに滑走路の状況が変化していた可能性は十分考えられます。報道によれば午前と午後に1回づつS/Iチェックを行っているそうです。離着陸の多い新千歳空港では、S/Iチェックのために計測車両を滑走路に入れる時間を割くのも難しいかもしれませんが、降雪や除雪作業などで路面状態が変化した可能性がある場合は、よりこまめな情報提供が必要でしょう。

(注:事故や重大インシデントが発生すると、気象庁はすぐに気象の特別観測を行います。同じように、東京航空局新千歳空港事務所は本件発生後にB滑走路のS/Iチェックを実施したはずです。そのデータの「滑りやすさ」を知りたいところですが、AIS JAPANではヒットしませんでした。滑走路が閉鎖されたのでノータムとしては出されなかったんでしょう。)

その他の要素

他にもいくつか気になることがあります。

機首方位の変化

スピードを求めるのに使った映像には、他にも大事な情報が含まれています。その一つが機首方位の変化です。カメラは機体右側の真横に近い位置から撮影していました。左右のプロペラや主車輪の位置に注目すると、機首方位の変化が分かります。

Q400は滑走路末端付近で機首が徐々に左を向いていきました。誘導路へ曲がろうとしたようにも見えますがそこに入らず、オーバーラン・エリアに進みました。その間、大きな減速は感じられません。オーバーラン・エリアを通過して除雪されていない雪の中に入り、機首は右に偏向しながら停止しました。

はじめ左に向いたのはパイロットの操作によるもの、自動車で言えばハンドルを少し左に切ったんでしょう。停止直前の右方向への変化は、パイロット操作かもしれないし、積雪による左右主脚の抵抗差かもしれません。

自機位置の確認

誘導路への出口が近づいているのに、雪氷滑走路上を20ノット以上の速度で地上走行していたとすれば何か理由があるはずです。その一つとして考えられるのは、自分の位置を正しく認識していなかったのでは?ということです。

  • 滑走路末端は見やすい状態だったか? 地吹雪などはなかったか?
  • 滑走路距離標識や出口の誘導路標識は見える状態だったか? その周囲は除雪されていたか?

また、着陸直後の操縦室内は何かと忙しいでしょうから、外部監視が疎かになるような要因がなかったかも気になります。

心理的な要素

Q400にとって3,000mの着陸滑走路は十分に長いですね。接地後、通常どおり減速すれば滑走路の中程までには離脱できる速度になるでしょう。でもこの日は隣のA滑走路の除雪のため途中からは出られず、滑走路上を末端まで地上走行する必要がありました。

その場合のパイロットの心情として、後続の着陸機の迷惑にならないよう早めに滑走路を空けたいと思うでしょう。そのため、あまりゆっくりした速度ではなく、安全な範囲内で速度を上げたいという心理が働いた…まったくの想像ですが…のかもしれません。管制官から急いで滑走路から出るよう指示されるようなことは、なかったと思いますが…。

こう考えると、3,000m滑走路に降りたQ400の「着陸」フェーズは完了していたと思います。この事象は「着陸」後の「地上走行」中に発生したと考えると「オーバーラン」と言っていいものやら…。地上走行中に滑走路を逸脱して自走できなくなった、とするのがふさわしい気もしますね。

まとめ

ひとことで言えば、直接の原因は滑走路出口付近の走行速度が速すぎたことだろうと思います。そのときの滑走路面の状態は、先に述べたような状況で特定することはできませんでした。

報道によれば、機長の飛行時間は1万5千時間を超えているそうですから、超ベテランと言えるでしょう。それでもこの事案が発生したのには何か理由があったはず、ここに掲げた他にも、私には知り得ないさまざまな要素が関わっていたのでしょう。

報道された限られた情報を基に書き連ねました。勝手な想像を含む個人的な見解です。関係者に対して失礼がありましたらお詫びいたします。

※ 略語

  • AIS Japan: Japan Aeronautical Information Service Center
  • NOTAM: Notice to Airmen
  • S/I: Snow and Ice

コメント

  1. イカゴロ より:

    事故調からスカウトされそうな分析記事ですネ。
    始めてニュースで報道された時、映像を見た限りではありますが、B2を真横に過走帯へと突き抜けたスピードが結構早いような感じを受けました。車で交差点手前で急に左折する時、冬道ではその路面状況から明らかに制動距離が足りずに、仕方なくそのまま直進するようことがありますが、そんな感じに似た飛行機版映像でした。
    報道によると、事故調もオーバーランの線で調査しているようなので、制動装置の不具合や路面状況、何らかの人為的なエラーがあったのかもしれませんネ。調査結果を待ちましょう。

    • やぶ悟空 より:

      オーバースピードで交差点、とても分かりやすいですね。なぜオーバースピードになったのかが本当の原因だろうと思います。事故調の報告書で「ああ、そういう事情だったのか」と納得したいものです。

  2. イカゴロ より:

    やぶ悟空さんも苫小牧なのでご購読済みとは思いますが、先日の北海道新聞に減速不足?の記事が掲載されていましたネ。また、別の報道機関では時速40km弱の速度がでていたのでは?との報道もありました。実にやぶ悟空さんの分析・計算結果そのものでした。
    北海道新聞の記事写しは、やぶ悟空さんの本記事リンクも加えて某老舗航空図書出版社の社長にも送りました。”ずいぶん細かな分析のできる人がいるものですね。感心します。”とのことでした。また、”事故調にいたこともあるのかな?”ともメールに加えられていました。ご報告まで。

    • やぶ悟空 より:

      1月28日(土)の夕方、NHKが「時速40キロほど…」「早く滑走路を出ようと…」と伝えているのをTVで見ました。私の推測を裏付けてくれるような報道で嬉しいですね。道新は購読していないもので…記事ありがとうございます。

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